テキストや教科書から自分なりにスクリーニングを作ってみたけど、これでいいのかな?
所属している施設ごとに患者層の違いがあるため、それぞれに適した検査を用いるのが一番です。
しかし、そういったものが無かったり、立ち上げや一人職場などの場合には、困ってしまいますよね。
スクリーニング検査の作成や、今使用している検査項目の理解の一助としてまとめてみました。
スクリーニング検査に必要な項目
スクリーニング検査で最低限確認したい項目をあげてみましょう。
- 全般性注意
- 失行
- 記憶
- 失認
- 計算
- 前頭葉機能
- 視空間認知
- 言語
これらの項目を組み合わせて実施することで、高次脳機能障害を検討できる材料がおおよそ集められると思われます。
この項目をどう調べていくかが、難しそうですね。
では、項目をひとつずつ見ていこう。
全般性注意
会話や全体的にレスポンスが遅い、聞こえているはずなのに聞き返しが多い、話の内容がまとまらない・・・などを感じる場合には全般性注意障害を疑う。
この項目の検査としては、順唱やserial7’sがある。
順唱は、検査者が数字をゆっくりと抑揚をつけずに言い、直後に同じ順番で再生してもらう課題。
正答できた桁数が成績となり、健常者では7桁前後、高齢者でも4桁程度を目安とし、それ以下なら全般性注意障害を疑う。
serial7’sは、「100から7つずつ順番に引いていってください」と聞いていくおなじみの課題。
引いた答えと、7を引くという規則性を把持しながら計算を行い続ける必要があるため、全般性注意に加えワーキングメモリも必要となる。
計算が元から苦手としている人や、失算を有する人も誤答となるが、この項目で見る全般性注意障害による誤答の場合は、筆算で正答することができることがポイントとなる。
serial7’sは「100ひく7は?」と尋ねてしまい、先輩に怒られたことがあります。「100から順番に7をくり返しひいて下さい」ですね。
記憶
会話が可能な方であれば、病歴や自宅の住所、食事の内容などの質問で、日常生活のエピソード記憶の程度をおおむね把握することができる。
HDS-RやMMSEにも組み込まれている「記銘」と「想起」を検討する。
- 記銘
-
情報を記憶の中に取り入れ留めておくこと。
- 想起
-
刺激(単語)を記銘させ、他の課題を行うなどして刺激内容を数分把持させてから、想起してもらう。
想起が難しい場合にも、選択肢から選んでもらうことで刺激を把持しているかが検討できる。
※記銘した直後に想起するのは即時記憶であり、全般性注意に関わる機能である。日常生活などのエピソード記憶とは別に検討する必要がある。
計算
全般性注意障害の項目でおこなった、serial7’sで誤答となった場合は、筆算を実施する。
筆算においても誤答となる場合には計算能力の低下(失算)を検討する。失語症による数字の錯書や、錯読が原因でも誤答となる場合もあるため、失語症の検討もおこないたい。
視空間認知
複数の材料(刺激)を組合わせることによって、ひとつのまとまりのある空間形態を形成する行為を検討する。
MMSEに含まれる重複五角形や透視立方体の模写にて、構成障害として検出しやすい。
手指でキツネなどの形を模倣する、手指肢位模倣も身体を使用しての構成行為として捉えられ、視空間認知機能が低下すると障害されやすい。
また、地誌的見当識障害のタイプである道順障害、自己中心的地誌的見当識障害も視空間認知能力が影響すると考えられる。
言語
画像診断や症状により失語症が強く疑われる場面では、言語性課題が多いスクリーニング検査はそもそも実施が困難な場合が多い。これらの場合には、まず言語機能の評価を行い(または情報を得て)、対象患者とのコミュニケーション・ストラテジー(伝達方略)を確立してから実施することが必要となる。
言語機能としては、「自発話」、「聴覚性理解」、「呼称」、「復唱」、「読み」、「書き」の能力を検討する。
- 自発話
-
これまでの会話の状態から、「流暢性」、「喚語困難」を主に検討する。
流暢性は日本語として途切れず、自然な流れが保たれているかどうか。
喚語困難は何か言おうとした際に言葉が出てこない状態をさす。
失行
失行は、脳損傷によって、身体能力と行う意思はあるにもかかわらず、かつて習得した行為を意図的に行うことができなくなった状態です。
運動障害や感覚障害、失語や失認、意識障害、情動障害などが原因となる行為障害と区別する必要がある。
したがって、失行を検討する場合は、運動障害、深部知覚障害や失認など行為に関係する症状がないかをまず確認したい。
口頭命令で実施し、指示が理解しにくい場合は模倣でおこなう。模倣で自然な動きが認められると、失行の要素は少ないと判断する。
主な失行の種類を挙げておきます。
観念運動失行
習熟した行為のパントマイム・慣習的ジェスチャー【(櫛を持たずに)髪をとかす真似・バイバイ・おいで等】
観念失行
道具使用、または道具を使用した系列行為【ハサミを使う・急須でお茶を入れる 等】
口腔顔面失行
口腔顔面部の習熟行為【咳払い・舌打ち・口笛 等】
構成失行・拮抗失行は失行の定義には当てはまらないが、慣習的に失行と呼ばれることが多い。
失認
失認とは、主に「ある感覚を介して対象物を認知することの障害」と定義される。
意識・感覚・ほかの認知機能の障害によるものは除くため、視覚・聴覚・触覚・深部覚などの基本的な知覚が保たれているか確認しておくことが前提となる。
主な失認をみておこう。
狭義の失認
視覚 | 視覚失認 | 物をつまんだり、障害物を避けることができるため、「見えている」と考えられるにも関わらず、物を見てもそれが何かがわからない |
質感失認 | 質感から素材を同定できない | |
相貌失認 | 熟知した人物を相貌によって認知する能力の障害 | |
街並失認 | 風景写真から熟知した場所や建物を同定できない | |
聴覚 | 聴覚失認 | 言語・音楽を除く有意味な聴覚刺激の認知障害 |
純粋語聾 | 言語性聴覚刺激の認知障害 | |
触覚 | 触覚失認 | 触ったものが何かわからない |
広義の失認
同時失認 | 2つのものを同時に感じることができない |
病態失認 | 自分の症状に気づかない |
身体失認 | 身体部位の同定ができない |
前頭葉機能
前頭葉は、人が行動を開始し、または抑制する機能を司。 さらに、生活をする上で必要な情報を整理、計画して処理・判断することも前頭葉の役割である。 加えて、自己を客観的に捉えることや感情を持つこと、言葉を発することも、前頭葉の機能として挙げられる。
前頭葉の機能は幅広く、社会的な生活を送る上で、必要な機能を司どっています。
前頭葉機能検査である『FAB(Frontal Assessment Battery)』は、言葉の概念化(類似の把握)、言語流暢性、運動プログラミング、干渉への感受性、抑制性制御、理解行動を調べる6つの項目からなっており、比較的簡便に検査を行ううことができる。
前頭葉は、注意機能・遂行機能・ワーキングメモリ・言語機能・感情・抑制・情報の統合など、あらゆる機能が満載されている感じですね。
道具の強迫的使用や性格変容、把握反射・手探り反射などの異常反射などでも前頭葉機能の低下が疑われます。
おすすめの検査の組み合わせ
これまでの項目を組み合わせて、オリジナルのスクリーニングテストを作成することで、各項目をより深く理解して検査に臨めるのではないかと思います。
しかし、一から検査を作るのはなかなか大変で時間もかかりますよね。
そこでおすすめの検査を2つ紹介します。
MMSE + 失行・失認・前頭葉機能検査の組み合わせ
MMSEにて『失見当識』、『全般性注意障害』、『注意・計算障害』、『言語性記憶障害』、『言語障害(復唱・呼称・読み・聴覚的理解・書字)』、『構成障害』を検討し、下記の追加の検査で失行・失認等を検討していく方法。
ジェスチャー | 観念運動失行 |
物品使用 | 観念失行 |
手指構成模倣 | 身体部位による構成障害・視空間認知 |
顔面の行為 | 口部顔面失行 |
線分2等分線 | 視空間認知・半側空間無視 |
左右同時刺激 | 消去現象(視覚性・聴覚性・触覚性) |
語列挙(カテゴリー・語頭音) | 語想起・喚語困難等 |
FABによる前頭葉機能検査 |
消去現象とは、身体の一側に与えられた感覚刺激は知覚できるが、両側同時に刺激を与えられた場合、もとの刺激が知覚されず消去してしまう過程を指す。体性感覚、聴覚、視覚の3つの領域にそれぞれ消去現象があると考えられており、注意の容量が少なくなっているために起こると考えられている。また、半側空間無視が軽くなった状態であるとされる説もある。
これらで、高次脳機能障害をおおよそカバーできそうですね。
STAD
失語症・構音障害・その他の高次脳機能障害を簡易に把握するためのスクリーニングとして開発されたのがSTAD(Screening Test for Aphasia and Dysarthria)です。
テストの信頼性・妥当性・健常ノルム試験を通したエビデンスが蓄積しており、脳損症例に対する標準化された言語障害スクリーニングテストとなっています。
ベッドサイドで10分程度で実施でき、言語聴覚士が在籍している施設や病院をはじめとして、在籍していない施設においても、患者の言語能力を中心とした高次脳機能を検討できるスクリーニングテストとして有用であります。
まとめ
- スクリーニングで『全般性注意』『記憶』『計算』『視空間認知』『失行』『失認』『前頭葉機能』『言語』の項目を検討する。
- 規定のスクリーニング検査がない場合には、『MMSEと失行・失認・前頭葉機能検査の組み合わせ』または『STAD』を使って言語・高次脳機能を検討してみよう。
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